日々の施術28 前頭直筋続き
☆前頭直筋のほぐし方
その前に、何でこんな所の筋肉が硬くなってしまうか?
枕が悪いから?姿勢が悪いから?
それもある「かも」しれないが、「かも」くらいである。
筋肉は案外柔軟性があり、ちょっとやそっとでは壊れない。
壊れる原因は「火事場の馬鹿力」によるものが多い。
☆筋肉が壊れる原因。しかもあまり知られて居ない原因。
ご存じのように、人間は本来の筋力の3割程度しか使っていないと言われる。
マックスまで使用するとすぐに筋繊維や腱、骨が傷んでしまうからで、脳にリミッターがある。
このリミッターはもちろん、意思の力では外すことができないが、意思が働かないようなパニック、生死が本当にかかったような事態では自動的に解除される。
火事の時にもの凄い重いタンスを1人で担いで逃げてきて、それを後で家の中に戻そうとしたら男3人でも持てなかったとか、目の前で車の下敷きになった子どもを救おうと、お母さんが鬼の形相で車を片手で押しのけ、片方の手で子どもを抱きかかえて車の下から出したとか、そういう例は昔から沢山ある。
医学的にもこういうことが起こりうることが証明されている。
一度この「火事場のバカ力」発揮すると、大体の人が暫く腰が抜けて立ち上がれなくなるそうだが、立ち上がったとしても、体調が完全に元の状態にもどるのに、数日から下手をすると数ヶ月かかるだろうと言われている。
このような、緊急事態時に発生する異常な力は、全身においてのみ発揮されるわけではない。
体の一部位にも発生する。発生しやすいのは首だ。
たとえば、アイスバーンなどで酷く足を滑らせたとき、つるっと足が前にあがり、一瞬体が宙に浮き、腰から地面に叩きつけられるような転び方をする時があるだろう。
スケートやスキーに行くと初心者は必ずなるし、日常生活でも雪が降ると、どこでなるか分からない。
こんな時、人間は反射的に首を「グッ」ともの凄い力で持ち上げる。
一瞬後頭部が地面に叩きつけれてしまっても、ピュッと凄い勢いで頭を持ち上げたりする。
むち打ちの場合はどうだろう。
昨年話題になった、背後からの不意打ちタックル。
ヘッドレストがない状態で車に乗っていて、激しく追突される。
こんな時、頭が慣性の法則によって後ろに取り残され、上を向いたようになり、首は後ろに激しく反る。
これで首にダメージが生じるのは見ていても分かるが、こんな時も前頭直筋は急激に縮むことによって、顎を引くような動作を咄嗟に行い、火事場の馬鹿力を発揮して、頭が完全に後ろに落ちてしまうのを防いでいる。
このような動きは自分でも体験することがあるし、テレビなどでも見るだろう。
事故などで、頭を激しく打ち付けそうになったり、頭が激しく振られ、脳にダメージが行きそうになったときに、火事場の馬鹿力を発揮して頭蓋骨や脳を守るのが前頭直筋なのだ。
横に寝て首を浮かせると、首はもの凄く重いから、これだけでも首や、首と頭の付け根には非常な負担がかかる。
この状態で、更に頭部を守るべく、瞬間的に顎を引いて、うつむく動作をするわけだ。
この瞬時の動きで頭部は守られ、生命も維持されるが、前頭直筋はダメージを受ける。
瞬時に急激に縮んで、重い頭を支えるのみならず、上に瞬間的な猛スピードで頭を持ち上げた為に、そのまま縮んで伸びなくなってしまうのだ。
こうやって前頭直筋が阻害されることが非常に多い。
このようなシチュエーションは激しいスポーツでは日常茶飯的に発生するが、スポーツをしなくても、事故にあったりして、こういうシチュエーションになるのは、そんなに珍しい話ではない。
この障害はすぐには自覚されない。多くの場合、意識は打ったお尻や、肘の痛みに向けられる。
さらに打撲したり、骨折したりしてしまうと、意識は100%そちらに行ってしまう。
そして、骨折が治れば「今回の転倒によるダメージは終了」となるのだが、その頃から段々と調子が悪くなってくる。
寝込むほどではない。
病院に行くほどではないが、何かが違ってくることが多い。
交通事故の不定愁訴的な後遺症は長引くが、結構な確率で前頭直筋の不調である。
骨折、傷は治っているので、医者としては「治療終了」「完治」となるのだが、患者はまだまだ不調を感じて居る。
しかし、レントゲンでも血液検査でも異常は無い。
現代医学には、何度も述べているように、整体的な観点はないので、事故や転倒と体調不良には因果関係がないと判断されてしまう。
この様な筋肉の障害は、メジャーで、皆が意識するような、腹筋とか、大臀筋などには起きにくいが、起きるとすれば、あとは腕の筋肉。
なにか大事なものをテーブルから落としそうになり、瞬間的に手を出して必死に受け止める。こういう動作でも壊れることがある。
四十肩と言われる症状でも、きっかけはこういう「意識を超えた無意識の回避行動などによる部分的な筋肉の火事場の馬鹿力的運動」にあることが多い。
ただ、四十肩の場合は原因があまり思い当たらないだけで、故障していることは明確に分かる。
しかし、前頭直筋の場合、小さい筋肉なので故障が分かりにくい。もちろん、レントゲン、血液検査などででは故障は調べようもなく、手によるテストで調べるしかない。
そして、放っておくと、全身に不調が広がり、美容にも悪いという、非常に始末の悪いものなのだ。
☆解除法
ではどうやって解除すればいいかというと、いくつかあるが、私は主にPRTを自己流にアレンジしたもの(靭帯テクニックと組み合わせた感じのもの)を使用して、動かすことなく安全に解除している。
筋肉が硬く縮んだ場合、もみほぐしたり、鍼をさすのが一般的な方法だが、これだとあまりきれいにはほぐれない。
縮んだ筋肉をもっと無理矢理縮めてやると、筋肉は嫌になって自分から伸びる。そういう仕組みになっているので、これを応用して、前頭直筋を縮めてやる。
もちろん、この筋肉は触れないので、頭蓋骨などの骨を介して力を送り込んで縮める。
前日の添付画像の様に、ハの字になっているので、まず左右差をチェックして、より壊れている方に、斜めに力を送って正確に縮める。
きちんと縮めてやると、30秒もすると緩んでくる。
このとき、被験者は、間違いなく気絶する。意識が飛ぶのである。寝息に変わるので、すぐに分かる。
ただ、実際に寝ているのでは無く、被験者も自分が寝息になっているのを観察していることが多い。
そして、さらに多くの場合、下顎が「ガクガク」痙攣するので、歯がカチカチ鳴る。これは覚えていない人が多い。
そしてお腹がグルグル鳴る。
モニターしている、後頭部の筋肉もグーッと緩んでくる。
全身から力が抜けてくると、終了である。
これを、なるべく反対の筋肉にも行う。
見えない所にある筋肉なので、力を送り込むのはイメージあるのみ。何度も骨模型を見て頭に入れて、頭蓋骨を通じて上手く縮める力を送り込むのだ。
上手くなると、1分程度で前頭直筋のリリースが終わり、患者さんの抱えている主訴がここに大きく依存していた場合は、何年も悩み、どこに行っても治らなかった、というような首凝り、肩こり、便秘、頭痛、眼精疲労などがたちどころに取れてしまうことも少なくない。
事故らしい事故に遭ったことがないのに、首がおかしい人は沢山居る。
事故というと、車にぶつかったり、跳ね飛ばされたり、スポーツをしていて靭帯を切ったり、相手とクロスしてしまったりという大きなものばかり想起するが、案外小さな、日常によくあるような転倒や尻餅などで「火事場の馬鹿力」が発揮されて部分的に筋肉が壊れ、それが長年かかって全身に及んでいるようなケースは多々ある。
多くは、中高生時代の部活時の怪我、障害がおざなりに処理されてこのような全身症状になってしまっているケースが多い。
昭和の時代は特にいい加減だったから、激しい部活に入っていた人は、50歳くらいから急にガタが来てしまう。
最近になって、怪我しても無理にプレーして乗り越えろとか、休むとダメになるからとにかく練習しろとかいう滅茶苦茶なことはなくなって多少マシだが、それでも指導者、いや世間全体に肉体の障害に対する上記のような知識がないので、40代、50代に爆発するような爆弾を10代の部活で抱え込まされている若者は沢山居る。
いや、部活だけが悪者ではない。日常生活でも、後遺症にたいする知識がすくなすぎるので、怪我をしても見かけの傷や、主立った痛みが無くなれば、医者も、本人も「一件落着」としてしまう。
もちろん、怪我を治してくれる外科の存在は絶対重要で、急性期には整体にかかっている場合では無く、整形外科に行くべきだ。手術や投薬の妙は研究され尽くしたものがあり、有り難い限りなのだが、是非もう一歩踏み込んで、後遺症まできちんとケアしてくれるような世の中になって欲しいと思っている。