追悼 ショーケンの思い出



もう15年くらい前、目黒で教員勤務していた頃。

まだ非常勤じゃなくて、専任で担任を持っていた時代。

うちの学校は昼休みは生徒対応で忙しいので、四時間目か五時間目の授業が空いている教員は、特に届け出なく、外に食事に行って良かった。

その日は確か五時間目と六時間目が休みだったので、ちょっとゆとりを持って食事に行くことにした。
外出して食事を食べるのは週1度あるかないかの非常に楽しみな時間だ。

散歩もかねて目黒不動付近で食事を取ることにして、目黒不動の横の坂を下りていった。

この時間、目黒通りから入ったこの辺りは人通りは殆ど無い。

長い坂を下るのは僕一人。下からは男性が一人だけ登ってくる。
なんということがない、裏通りの昼下がりの光景だが、男が近づくに連れ、その特異な衣装と雰囲気が気になりだした。

スリムな長身、長い足。このスタイルがまず常人離れをしている。

黒づくめの衣装だが、ベルベッドのようなジャケットには白い特殊なステッチ。派手なスカーフ。
装飾のきいた眼鏡には薄く色がついている。
髪はビシッとしたオールバック。

もちろん、サラリーマンでもないし、かといってヤクザでもない。

これは芸能人だな~

とすぐ察しがつく。

目黒のこの辺りには芸能人が沢山住んでいて、車に乗っている姿や、店で食事をしている姿を見ることは珍しくはないが、一人で裏道を歩いているのは珍しい。
しかも格好がキマリすぎている。

すれ違うときにショーケンだと分かった。
おお、ショーケンじゃん。
もちろん、声をかけるつもりは元よりなかったが、完全に一対一の状況にちょっと緊張。

向こうは僕にちらりと一瞥をくれて、そのまま去って行った。

いや、格好よかったっですよ。銀座の町中とかではなく、あんなどうでもいい裏道であそこまでキマっているのは凄い。
いわゆるオーラも半端なものではなかった。
色気もあるし、普通の人物じゃない。

一瞬すれ違っただけだが、このくらいの強い印象を受けた。

その後、お不動産にお参りしようと、参道から階段を上り、お参り。
暫く散策したりしたかもしれないが、そんなに長くはいたつもりはない。
さて、飯に行くか、と思ってお不動さん前の男坂の階段を降り始めると、下から男が一人上がっている。

あれ?あの風体はさっきのショーケンじゃないか?
何故横の坂ですれ違ってから、数分後にさっきとは逆方向となる階段の下から上ってきたのか今でもよく分からないが、とにかくショーケンが登ってくる。

かくして、我々は再びすれ違った。
なんか、ストーキングでもしていると思われたら嫌だな、と思ってさっき以上に僕は素知らぬふり。
ショーケンの方はずっと下を向いて登ってきたが、上から人が来た雰囲気を察したか、ちょっと上方を見て、僕と目があった。今度はその目に「おや?」という風情が一瞬付け加わったが、そのままなにもなくすれ違った。

やれやれ、短時間に2度もすれ違ったな、と少々驚きながら五百羅漢時の前の食堂で昼飯(ちなみにここはとても美味しい)。
いやー食べたな、と時間を見るとまだちょっと余裕があるので、ついでに蛸薬師にも参拝しようと思い立った。
近くにタコの上に薬師如来が乗っているという、珍しい仏像があるのだ。

食堂を出て蛸薬師までは200メートルほど。

一直線の道を歩く。

食堂の前に経つと、遙か無効に本堂に描かれた蛸の絵が見える。
その絵に向かって歩き出して暫し。
蛸薬師の中から男が一人、ふらりと出てきた。
またしてもショーケンである。
ひなびた蛸薬師の雰囲気から浮きまくっている。

あれ、ヤバい、また来ちゃった。

ちょっとしつこく後をつけているようでようで嫌だな、と狼狽えたが、逃げる道もないので直進。
また狭い道には僕とショーケンしかいない。

今度はショーケンはかなり早い段階で僕を確認し、顔が分かるところまで近づくと、ちょっと眉をひそめるように「ん??」という表情をした。

不審がっているけど、タマタマだよ~

と思いながら、どうやってすれ違おうと短い時間であれこれ考える。一瞥もくれずにすれ違うかな… どうしよう…

その間にもどんどん間合いが詰まる。
えは纏まらない。

ショーケンも近づくにつれ、より「むむむむっ!」という雰囲気を発している。
で、結局どうしたかというと、どちらが先とも言えないタイミングで
「あ、どうも」
とお互いに何故かにっこり笑ってすれ違ったのである。

何が「どうも」なのかよく分からないけど(笑)

「生ショーケン」を見たのは後にも先にもその時だけだが、1時間に三回も会ってしまった。

僕も目黒不動と蛸薬師のはしごをしたのだが、ショーケンも昼下がりに一人、はしごをしていたようだ。
キメキメのスタイルで。

人生に起こることは必ず意味があることだという。
これがどう言う意味をもっているのか未だに分からないが、忘れがたい面白い思い出の一つだ。

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