日々の施術29 ☆バネ指への施術 1
☆女性 70代
☆症状
長年のバネ指。
右の中指が、完全に曲げにくい上に、完全には曲がりきらない。
一度ある程度曲げてしまうと、延ばすときに引っかかって自力では延ばせない。
左手で引っ張ってやると、カクッというクリックとともに、伸びる。
この間、動きごとに痛みがある。
医者をはじめ、鍼、整体等あらゆる所を試したがよくならないので「こういうものだ」とほぼ諦めている。
しかし、年々動きが悪くなり、現役で事務仕事などをしているため、不自由なことが増えて困っている。
痛みは我慢できても動かないのは他の人にも迷惑がかかるから、治るならもちろん治したい。
この数年は、朝の強ばりが酷く、起きてから1時間くらいはジンジンと指~指の付け根にかけて頂く、全く動かすこともできないので、朝の家事ができないのも困っている。
☆バネ指とは
バネ指は、四十肩、五十肩と同じように、正式な病名ではなく、定義の難しい疾患である。
四十肩五十肩は、原因不明の肩痛、腕の可動域低下を現象面だけでいっぱひとからげにしている「俗称」であって、機序は様々であるが、バネ指も、指が動きにくくなったが(多くは疼痛を伴う)原因がよく分からない疾患を、現象面でカテゴライズした総称である。
動きが単にスムーズでなくなっただけでなく、途中で引っかかり(クリック)が生じ、この引っかかりを通過させるときにかなり力が要る。
例えば、指が伸びにくい場合、うーんと力を入れると、突然カクッと一気伸びる。
この様がバネ仕掛けの様に見えるので、こう呼ぶが、先も書いたように現象面からつけた名前なので、機序(発生原因と、発症のメカニズム)は様々であり、西洋医学的には一般に原因不明とされる。
症状が進むと、自力でクリックを通過することができなくなり、反対の手で引っ張って伸ばすなどの作業が必要となる。
指が動かないことより、生活が不便になるだけでなく、多くの場合痛みを伴うので、これが患者を苦しめる。
一般的な治療は、痛み止めによる苦痛の緩和、ステロイド注射など。
重度になると手術となる。
西洋医学的には根本的な解決は手術しかないとされる。
☆検査
さて、検査してみると、指は典型的なバネ指状態で、自力では開くことができない状態までになっていた。
変形もかなりあり、45度くらい曲がった状態で固定され、これ以上伸びない。
問題は指だけではなく、右腕が上がらない。
90度いかないくらいだが、本人曰く「挙がらないだけでたいしたことがない」ので主訴に加えなかったということだ。
右肩が大きく前にせり出しており、寝ても右肩がベッドに付かない。
肘も伸びきっていない。
そして何より、肩がガチガチである。
「肩こり、大変でしょう!」
というと
「当たり前過ぎて訴える気にもならない」
とのこと。
以前、高齢男性が自分の体に無頓着するぎる話を書いたが、高齢の女性はまた違って
「我慢強すぎる」
のである。
よくこんな状態でとりあえず働いていられるな、と感心してしまうが
「痛い痛いと言うと周りに迷惑がかかる」
というような理由で、苦痛は、本当に動けなくなるくらいにならないと、訴えない。
これは私の80越えた母親もそうで、
「こんなになるまでほっとかないで、早く言ってよ」
ということはしばしばある。
すぐ「疲れた」「暑い」「だるい」
と口にしてしまうのも困りものだが、余りにも我慢強くて限界を超えるまで何も周囲に伝えないのも困ってしまうのである。
このお母さんも、本当に我慢強く働いて来たのだろうということが、体からひしひしと伝わってくるのである。
さて、施術であるが、
この場合、順序的にはやはり
肩こりの改善が先である。
部分は、根本が良くならなければ完全に良くなることはない。
根本がきちんと治れば、何にもしなくても勝手に治ることも多々ある。
根本を治して、それから部分に移行するのが長い目で見ると絶対にいい。
いきなり指の施術をするのは、上策とはいえない。
さらに言うと、肩こりは腰の不調から来ているから、やっぱり腰から施術するのが一番いい。
指の施術をしてもいいのだが、効果が出ても長続きしないことが多い。
場当たり的な施術になってしまうことが多いのだ。
そこでこの日は、その旨を説明して、負のエネルギー除去と、腰の施術に注力し、残った時間は胸椎、肋骨、上腕の施術にあてた。
指はほぼ触らなかった。
体が劇的に軽くなったと本当に喜んでくれた。指の方も、基礎的な歪みが取れたとことにより、自動的に動きがよくなり、こわばりも取れた。
「朝の痛みが減り、強ばって動かない時間も半分くらいになって助かっているが、なにより体が軽く、肩が楽になって本当によかった。
指を治すつもりだったのに、全身がこんなに調子がよくなって本当に嬉しい」
と連絡を頂いた。
ごく希にだが、いくら基礎から施術しますよ、と伝えても
「指に何で施術しないんだ」
「確かに体は楽になったが、指があまり動かなくては意味が無い」
ということを言われてしまうことがあるのだが、本当に悪いところからきちんと狙って施術していけば、大体のことは勝手に治るのである。
そうは言っても
ただ、部分が治ることだけが、大切。
全体なんて良くなっても意味がない。
と考える人も沢山いるので、これはやはり患者さんの意向に合わせるしかないこともよくあるが。
一見、回り道のようだが、根本から治した方が最終的には効果が上がるし、かつ長持ちする。
今回のお母さんのように、根本的な改善をきちんと評価してくださると非常に嬉しいのである。
さて、次回は、腕、肘、そして指そのものの施術へと移行したので、その様子を書こうと思う。