医師免許と鍼灸師免許の違いを彫り師問題から解説


つい最近、彫り師に対して医師免許がないのにタトゥーをした、
として有罪判決が下されました。

こんな裁判をしていたことを知らなかったので驚きました。
これは整体業界にいる人間にとっても非常に注目すべき裁判であり、判決です。

現在の日本では、他人の体を切ったり、何かを刺したり、挿入したり、

その結果流血させたりしても罪に問われないのは、医師免許を持っている人間だけです。

例外はありません。

手術はもちろん医療行為ですが、
見方を変えれば手術は「傷害」とも言えますよね。

傷害と、医療行為を分けるのは、もちろん国家発行の免許の有無です。

六年間国が認可した教育機関(大学医学部)で学び、卒業認定を受けた者だけが国の作った試験(医師国家試験)を受けることが出来ます。

この試験で一定以上の成績をあげた者が医師免許を手にするわけですが、

このように、人間の体の仕組みを十分に知り、国から許可を得た人間が、

基本的に相手の同意の下に、

相手の苦痛を除くことを目的とした治療を行う意図をもって、

定められた衛生基準を満たした場所において、

基準を満たした道具でもって(緊急時はその限りではありませんが)

切ったり刺したりして初めて、

これらの行為は傷害ではなく、治療行為と言うことが出来る、

というのが現行の法の下での決まりです。

私が取得している鍼師、灸師免許も

(一般的に鍼灸師、と言いますが、実際は二つ別々の免許です。同時に取得することが一般化しており、どちらかの免許だけしか持っていない、という人が希なので、鍼師ではない、鍼灸師という言い方が一般的になっています)

人の体に鍼を刺したり、火傷を負わせるわけで、普通の人がやれば傷害行為です。

医師ほど複雑な手術などは行いませんので、
教育期間を半分の3年としていますが、
国が認可した教育機関に通い、卒業認定を受けた上で、国家試験にパスしなければならない、という流れは全く同じです。
試験にパスすると、他人の体を改善するために(厳密には治療と言ってはいけない)、
鍼をさしたり、灸を燃やして軽度の火傷を負わせることが許されます。

しかし、切るのと、流血は鍼師、灸師でも御法度です。

もちろん、鍼を刺した結果血が出てしまうことは時々あるのですが、
故意に行ったものでなければ、仕方がないよね、ということで罪には問われません。

床屋で髭を剃ってもらっていて、ちょっと切られて血が滲んでしまった、
なんて経験を持っている方もいると思いますが、それと同じです。
本気で客が裁判を起こしたら程度によっては罪に問われるかもしれませんが、
一般的には裁判にすらなりません。

さて上で書いたように、切るのと、流血は医師免許保持者の専売特許で例外はなく、

それに継ぐレベルで「傷害可能」?な鍼灸師でも切るのと流血はダメです。

彫り師に話を戻しますと、彫り師は他人の体に鍼を刺します。
この時点で最低鍼師免許がないと法的にはダメです。

ただ、彫り物の場合、大量ではないものの流血もつきものだそうで、これが引っかかって、鍼師免許でもダメ。

他人の体に鍼を刺して、流血させていいのは何か?
というと、医師免許しかない、という判断です。

彫り師の仕事は医師法から見て黒か白か、とまともに問われたら、
国としては黒、としか答えようがないでしょう。

そっとしておけば、このまま黙認というグレーゾーンのまま移行できたと思いますが、
裁判で白黒つけてしまい、
最高裁で黒と言われてしまったら、慣例を重んじる、
今の日本の法治体勢のもので、状況を覆すのは極めて難しくなるでしょう。

ではこれまで、何故これまで見逃されてきたのか?
それは江戸時代より伝わる日本の伝統的技術だからなのですが、
その前にちょっと彫り物の歴史を。
興味のある方は最下部を一読して下さい。


さてこのような歴史を辿った彫り物ですが、
彫り師は禁止時には、もちろんアングラ、違法活動しかありません。
細々と生き残った彫り師は解禁後、せっかく出来るようになると思ったら、今度は

「これって医師法違反じゃないか?」

と指摘されるのですが、
昔から続く伝統技法であるのと、
せっかく解禁で復活した彫り師に今更医学部に行けとは言えない、
ということで、何となく黙許されて今に至っています。

これは実は鍼師も同じで、江戸時代から続く伝統技法です。
現在の医師法が整備された時、やはり医師法違反となるので、
医師免許を取得しない限りやってはいけない、という意見が出ました。

当時の鍼師達は反対し、政治的なはたらきかけをした結果、
医師免許より簡易な代わりに、していいことを「刺すことのみ」
に特化した免許を設定することで落ち着きました。

彫り物も、この当時にきちんと医師免許を取らなければならない、
と決めてしまうか、
鍼師のような、特化、制限化した免許制度を導入すればよかったのですが、
何となく黙許できてしまったことが、ここに来て災いしているわけです。

今後、彫り方の技術ではなく、衛生管理や人体構造に主眼を置いた免許制度を作れば
いいんじゃないか、とは思いますが、現状の彫り物への風当たりを見ていますと、
国が彫り物に対する
「認可」「お墨付き」
を出すようになるのは難しいだろうと思います。
ちなみに、アメリカでは州ごとに異なるそうですが、講習と試験をパスした人に、
公的機関からライセンスが発行されるそうです。

さて、血が医師免許以外御法度なのは上に書いた通りですが、
鍼には実は伝統技法として
「瀉血」
というものが存在します。

これは体の凝っている場所や、指先などに鍼を刺したり、
少し切ったりして血を出して症状を改善する方法です。

日本だけではなく、世界中にある、医療の基本とも言えるものです。
経験から、昔の人は流血すると体の症状が改善することがあることを知っていたのでしょう。

日本では、肩こりの部分にヒルを故意に吸い付かせ、血を吸わせる民間療法がありますが、これも瀉血の一種です。

瀉血は世界中で行われてきたわけで、それだけ効果が高いのだと思います。
日本では主に鍼師の技として受け継がれてきましたが、

鍼師が流血御法度になってしまってからは、グレーゾーンで細々と受け継がれています。

医師免許を持っている人はやっても問題ないのですが、

西洋医学の学校ではまず習わないので、存在を知ってすらいない医師も沢山居ます。

保険適用外の瀉血を行う医師など日本に殆どいないので、
その効果を味わうのは極めて難しいのが現状です。

私が知っている限りでは、医師で瀉血について堂々と語っているのは、
阪大医学部を出てから医師になり、さらに奈良の春日大社の宮司に転身した
葉室賴昭氏くらいです。
氏は 著作 の中で、瀉血について度々語っていますが、極めて効果的だったようです。

最後に、ヒルに血を吸わせる、というのは法の盲点を突いた極めて面白い方法で、
まともに裁判になったらどういう判決が下るのだろう、といつも想像してしまいます。


  ☆☆彫り物の歴史☆☆
織物や、刀剣など、古来より伝わる日本の技術は非常に高いものばかりですが、彫り物も、その一つです。
江戸時代の浮世絵などを見ると、実に様々な職業の、沢山の人たちが彫り物をしていた事実に驚かされます。
ただ、明治になり明治政府が法律で禁止したことにより、その地位は一気に低下します。
(禁止は外国に追いつくための富国強兵政策の一環とされる)

芸術や、庶民のファッションとしての面は隠され、罪人に施されていたとんでもないもの、という面を強調するのは明治政府によって行われたプロパガンダであることは彫り物の好き嫌いにかかわらず、客観的に知っておくべきでしょう。
我々が普遍的だと思い込んでいる一般常識が、実は明治政府が作った、歴史的に100年程度のものである例は多々あります。

現在は明治政府によって植え付けられた偏見が今も生き残っていると言えます。

ちなみに、今は一般的に「入れ墨」と言われますが、これは罪人に施された、刑罰としての模様のことで、一般庶民がいれていたのは「文身(ぶんしん)」「紋々」と言われていました。
「入れ墨」というネガティブが言葉のみが残されたのも意図的なものかもしれません。

彫り物禁止令は、太平洋戦争後解禁になり現在は彫り物を入れることに対する、社会的偏見や、ローカルルールはあっても、法的拘束力はありません。


禁止令の出ていた間、わざわざ入れていた彫り物をしていた人たちは、まさにアウトローで、自らをアウトローであることを主張するために敢えて彫り物をしていたわけですから、
彫り物=怖い人
というイメージはこのころ完成されたものだと言えます。

確かにこの時代であっても、ファッションに敏感だったり、威勢良く見せたい、目立ちたいという人や、役者など、粋な人が入れる傾向はあったようですが、今のように
彫り物=悪、罪人、アウトロー
といったネガティブ一点張りの観点はありませんでした。







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